腕時計の重さに引きずられる

腕時計の重さが
錨に引きずられる魚にかえる
海底に馴染むように出来た体を軋ませて
痛みを背負いながら泳ぐ海
限りない広さが
底なしの風景を呼び寄せる


満月の夜が近づくにつれ
新月も近づく
窓にわたしたちの姿をうつして
深い秋の夜を風とともに漂う
君の横顔に刻みだした皺の数に
わたしへの哀しみが見える
もう、月灯りはいらない


君がゆっくりと話す言葉は
波が彼方へ帰る速さに似ていた
砂を持ち去り、何も残さないまま
来たことだけを打ち寄せる音で知らせる
引きずられていくのは、
海底にいることしかできない
わたしだった